江津市議会基本条例に反対した理由

 議会最終日に提案された江津市議会基本条例に反対しました。反対討論内容は以下、

①条例とするべき内容ではない。基本的に条例というのは、「住民の権利・自由に対する制限を定めるもの」であり、それ以外のものは条例という形で定めるべきではない。
②憲法違反や、地方自治法との関係で疑義のある条文が多々ある。内容が、議会、議員の努力義務を規定するものであるために、文言が抽象的である。
③議会基本条例が市民の一人一人の声にこたえようとするものであるなら、条例化する前にパブリックコメントを求めることが必要と思われる。こういった手続きを踏まえずに任期切れ直前に議決していくのは、新たな議員ならず市民に対しても不誠実な態度であり、江津市議会がめざす議会とは相反するものである。

(1)条例によって定めることについて疑問がある。
 ア 「条例」(憲法94条等)という法形式で制定することには疑問がある。
 そもそも、法律学の概念において、人民の人権、権利ないし自由を制限する法規範を狭義の意味での「法規」という。地方議会は、条例制定権を有するが、これは、条例が地方住民の人権、権利ないし自由を制限する性質を有する(法規性を有する)ことから、これを地方住民の代表者である議会による民主的コントロールの元におくためである。国政において、国会が国民の代表者として国民の人権、権利ないし自由を制限する「法律」を制定する権利を有することと同じである。裏を返せば、地方住民の人権、権利ないし自由を制限する性質を有することのない単なるルールについては、これをあえて条例という法形式で制定する必要は無いことことになる。つまり、国民や住民の人権、権利ないし自由を制限するルールのみを、法律や条例で定めるべきということになるが、この江津市議会基本条例案は、この「国民や住民の権利ないし自由を制限する」性質を持たない条項がほとんどであるから、条例で定めることに疑問がある。具体的に条例案についてみると、第1条において目的として「議会及び議員の活動に関する基本事項を定める」とされているとおり、全体を通して概ね議会における審議のあり方や議員の努力義務等について定めたものが多く、総体として法規性があるようなルールとはなっていない。本来、条例とすべきものでないものを条例の形式で制定すること自体、疑問である。従って、条例案については、「条例」として定めるべきではない。
 イ 平成22年3月19日 江津市議会及び江津市議会議員の活動における基本的事項に関する決議で同様の目的が達成されている。
 すでに、江津市議会及び江津市議会議員の活動における基本的事項に関する決議で同様の目的が定められており、本条例の目的とするところは、条例ではなく、まさに決議等で定めるべきである。すでにある決議を修正ないし補完するものとして成立させるにとどめるべきである。

(2)個別の条文について、憲法違反の可能性ないし憲法との関連で疑義のある条項があるために、修正が必要である。
 ア 条例案第12条について
 条例案第12条は、「委員会において審査し結論を出す場合、」「議員間相互の議論を尽くして合意形成に努めるものとする。」と規定する。憲法19条は、「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」と規定している。この趣旨は、個人の内面的な精神的自由を保障することにあるが、そもそも個人の内面的な精神的自由こそ、信教の自由、表現の自由及び学問の自由といった各精神的自由権の前提となるものであり、また、自由な議論を前提とする民主主義に基づく統治の前提となるものである。
 そのため、まさに国民、地域住民の代表者として現実に民主制による統治の役割を担っている市議会議員については、政治に関する思想及び良心の自由は高度に保障されなくてはならず、委員会で審議の対象とされる議題について他の議員の政治信条と自らの政治信条とが異なる場合に、自らの政治信条を曲げてまで合意の形成に努める義務はないというべきである。そして、憲法99条は、憲法尊重擁護義務を規定しているが、地方議会及びその議員が憲法尊重擁護義務を負うことはいうまでもないことである。よって、条例案第12条は、議員に対し自らの政治思想と異なる妥協を強いることになる点で、 憲法19条に違反する可能性が高いといわざるを得ない。
 イ 条例案第13条について
 条例案第13条において「議会としての共通認識の醸成に努めるため」、議員懇談会を開催すると規定されている。議会としての共通認識の醸成=「共通認識を持つこと」となる恐れもあり、これは、条例案第12条と同様、憲法19条に抵触する恐れがある。
 ウ 条例案第8条について
  憲法21条の表現の自由により、議員は審議において、不適切なものでない限り、発言の自由が保障されなければならない。なぜなら、表現の自由は活発な討論に不可欠なものであるし、また、民主制を支える精神的自由の根幹をなすものだからである。ところが、議会が「市長等との立場及び権能の違いを踏まえ」と規定してしまうと、それが議員の発言に対する精神的自縛となり、議員の発言に対する他の議員ないし長からの干渉となる恐れがある。本条項は憲法21条に照らして適切なものとは思われない。また、条例案第8条は「議会は、市長等との立場及び権能の違いを踏まえ、常に『緊張ある関係』を構築しなければならない」とするが、文言が抽象的であって、具体的にどのような関係を求めるものか不明である。文言が抽象的であると、事前の予測が不可能となり、発言に対する強い抑制となってしまう。そのため、表現の自由を定める憲法21条に反する恐れがある

(3)地方自治法などの上位規範や江津市の他の条例に規定がある為に、規定の必要性について疑義がある条文がある。
 ア.条例案第2条第3項について
   条例案第2条第3項は、議会の監視・評価義務及び機能について規定しているが、かかる議会の監視権等については地方自治法に規定がある。そもそも、 地方公共団体において首長と議会が置かれている以上(憲法92条、同93条、地方自治法89条、地方自治法139条)、そこに抑制と均衡を趣旨とする権力分立が予定されていることは当然であるし、地方自治法が議会の監視権等について具体的かつ詳細な規定を設けていることからすれば、条例案第2条第3項の内容については、憲法及び地方自治法上の諸規定からすでに明かである。あえて議会基本条例を設けて規定する必要はない。
 イ.条例案第5条第2項について
   条例案第5条第2項は、会議公開の原則を定めるが、そもそも地方自治法115条第1項において「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。但し、議長又は議員三人以上の発議により、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。」と規定し、第2項において「前項但書の議長又は議員の発議は、討論を行わないでその可否を決しなければならない。 」と規定して、会議公開の原則とその例外としての秘密会について説明する。上位法令である地方自治法に明文規定がある事柄を、あえて条例で定める必要があるのか疑問である。
 ウ.条例案第9条第1項について
   条例案第9条第1項は、代表質問及び一般質問の質問方法を定めるものであるが、このような議事における細則については、すでに江津市議会会議規則が存在しており、この規則の改正ないし他の規則の制定による方が適切であると思われる。新たに、条例で定めることが適切かは、大いに疑問である。

(4)個別の条文について、法規として適用の可能性がなく、条例として規定する必要がない。
 ア.条例案第5条第3項について
  条例案第5条第3項は、「市民の多様な意見(または専門的知見)を議会の政策形成に反映させる」と規定しているが、そこに想定されている「市民」とはいったい誰を指すのか。江津市民の中には、大人も子供もおり、江津市内で出生した者、そうでない者など、その属性は実に多様である。このような状況のもと、議会がすべての市民一人一人の意見を政策形成に反映させることは現実的にはおよそ不可能であるし、市民一人一人を現実にまちづくりに参加させていくこともおよそ不可能である。そうすると、江津市議会基本条例案第5条第3項所定の「市民」とは、抽象的象徴的概念としての「市民」であると解さざるを得ない。そうである以上、江津市議会基本条例案第5条第3項も、理念的規定にとどまるものであると判断せざるを得ない。そして、このような理念は、結局は住民自治の内容の一面を語っているにすぎない。住民自治の内容を具体化する手続を定めるのであれば、意味があるが、抽象的な理念を条例として規定することについては、意味がないといわざるをえない。

(5)規定の定め方としての疑問
 ア.条例案第3条について
  条例案第3条は、議員の活動原則について定めているが、同条第1項「自己の地位に基づく影響力を不正に使用することなく」とはいかなる状況を想定しているのか不明である。また、同条第1項から第3項の規定は議員の倫理規程程度の意味しか有しないから、条例という形式で規定する必要がないと言わざるをえない。
 イ.条例案第10条、11条について
  条例案第10条は、市長の政策等について説明を求めることを規定しているが、市長に政策についての説明を求めることは当然であって、むしろ重要なのは、 市長にどのような方法をもって説明させるかである。条例案第10条は、形式的に要件をあげているが、その内容が伴わなければ何ら意味を持たない。具体的にいかなる方法で説明を求めるのかを明確化する必要があろう。また、条例案第11条の規程と相まって、広く市長に説明責任を課したものとする見解もあるかも知れないが、説明が必要となるのは「予算及び決算の審議にあたって」つまり、予算案および決算について説明が必要というのとどまるから、市長の説明責任という点からは、十分と言えるかどうか疑問である。
 ウ.条例案第14条について
  条例案第14条は、委員会の運営について定めているが、そうであるならば、むしろこの条項は江津市議会委員会条例の改正によって同条例に織り込むべきである。
 エ.条例案第15条について
  条例案第15条は、政務調査費について定めているが、すでに、江津市議会政務調査費の交付に関する条例第6条において、収支報告書の提出が規定されているから、このような抽象的規定を追加する必要はないと思われる。
 オ.条例案第17条について
  条例案第17条は、議会事務局の調査および法務機能の充実強化の為の体制整備を議会の責務としているが、このような手法で本当に調査および法務機能の充実強化が図れるか疑問である。そもそも、条例案第17条が期待しているような議会事務局職員の法律的知識は、専門的法律教育と職業的法律家としての実践経験がなければ獲得できるものではない。議会において体制整備の努力義務とすることは目的達成の為の手段たり得ない。 条例案第17条は、立法目的とそれを実現するための手段が一致していない。
 カ.条例案第18条について
  条例案第18条は、議員定数の定めに関する規定であるが、そもそも議員定数については地方自治法91条が条例事項として定めるところであり、重ねて江津市議会基本条例案第18条のような条例を定める必要があるか疑問である。また、議員定数の改正に当たって、「市政の現状及び課題並びに将来の予測及び展望」を十分に考慮するものと規定しているが、当然と言えば当然のことであって、規定を置くだけの意味がない。

 以上のように、条例案の内容は、そもそも条例として定めるべき内容をほとんど有していないし、同様の目的を達成するためのものとして、すでに「江津市議会及び江津市議会議員の活動における基本的事項に関する決議」が定められていることから、決議の改正などの形で対応すれば十分である。また、実際には、憲法との抵触のおそれもある条文があること、地方自治法などとの関係から、条文の修正が多数必要であり、現時点で条例案を可決するべきではない。

 さて、この江津市議会基本条例はこの後、採択されることになっていますが、私以外の議員全員が賛成なんでしょうか? 今月も全国でいくつかの議会基本条例が提案されました、岩手県久慈(くじ)市議会は4日、3月定例会最終日の本会議で、議会運営の原則や議員の役割などを明文化した議会基本条例「じぇじぇじぇ基本条例」(通称)を全会一致で可決しました。昨日19日には福井県議会で議会基本条例が全会一致で採択されました。
 こういったことからすると、これまで述べましたように憲法尊重擁護義務に反する内容もあるなど、江津市議会基本条例の制定についてはまだまだ検討されるべき課題が多く残っているということを指摘し、また全議員のみならず市民が熟知賛同しない中での条例採択には、「まず条例ありき」との感をぬぐいさることができないため反対します。

→江津市議会基本条例
→江津市議会及び江津市議会議員の活動における基本事項に関する決議


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